木の家の断熱 | 建築工房 零

04構造と基本性能木の家の断熱

快適な室内空間の構築において「断熱」を抜きには考えることはできません。
当然、しっかりとした断熱はCO2の削減や省エネにとても重要なのは言うまでもありません。

そこで、快適な断熱について考えてみます。

まず、はじめに考えなければいけないのが、なぜ断熱が必要なのか?ということです。
目的は何?
なぜこんなことを書くのかというと、目的のための手段である「断熱」がいつのまにか目的になって「断熱のために家を建てる」方が見受けられるからです。

ソト断熱VSウチ断熱、高気密VS・・・・・ のような議論ではなく、

こでの「断熱」の目的を「暖かく(涼しく)快適な空間を省エネルギーで構築するため」と定義します。

そこで断熱を、

① 断熱材やサッシの性能など仕様的アプローチ

② 間取りや窓・庇の位置など設計的アプローチ

の二つで考えます。
①ばかりが重要視されますが、同じかそれ以上に②は重要です。

仕様的アプローチ

室内で人間が「暖かい」と感じる要素は温度だけではありません。温度・気流・輻射・湿度がかかわってきます。
人間がもっとも快適に感じる状態は
人間の代謝量+外部から得られる熱量=外部に奪われる熱量
との熱的平衡状態となり、その右側の放熱量は、対流・輻射・水分蒸発の気化熱などによります。
たとえば、断熱が不十分な室内で高出力の暖房からエネルギーを大量に使いながら熱風がガンガン吹き出てきているとします。
温度が十分に高いとしても、外部へと熱はどんどん逃げるため床や壁の温度はそれほど上がりません。
空気温度は高いが輻射熱はその物体の温度に比例するので、冷えた床や壁からの冷輻射で不快に感じてしまいます。
いわゆる底冷えです。
逆に空気の温度がそこそこでも床や壁が十分に暖かいと輻射熱により暖かく快適に感じます。
わかりやすくディフォルメすると人間が影響を受けるのは
(空気の温度+輻射熱の影響)/2
であるため、例えば輻射熱の影響が10度くらいのものならば、20度くらいに感じるためには室温を30度にしないどダメなことになります。
壁や床がしっかりと断熱されていて20度を保っていると仮定すると、空気の温度は20度で十分になります。
ですから、よくあるシュミレーションでは空気温度を20度に保つためのエネルギーの量を計算しますが、実際には同じ温度にする必要もなくなるために断熱の効果はシュミレーションの値よりも大きくなります。
つまり断熱は室温を高く保つことに加え、壁・天井・床の温度を保ち、冷輻射を防ぐ役割があります。
窓を閉め切った状態で外部との温度差を確保するだけが断熱ではなく、(例えが夏と冬で逆になりますが)熱い夏に窓を開けっ放しにして風を受けながらきちんと断熱された壁や天井から熱放射を受けずに快適に過ごすことも断熱の大きな役割です。
断熱がしっかりしていなければ太陽熱で熱せられた屋根(天井)や壁からの輻射熱で窓を開けていても室外以上に暑くなることもあります。
ちなみに輻射熱は面熱源の場合は距離の二乗に比例するので、人間が最も近い場所、つまり冬は床の温度が高いと快適さは上がります。
床暖熱が人気なのはその為です。
しかし、ここで落とし穴があります。
理論上はそれだけで決まるのですが、実際の現場は机上のとおりではありません。
いくら高性能の断熱材でも、隙間なく詰め込むことができなければ理論上の数値はまったく同じでありません。
実際の現場では断熱材は筋交いやコンセント、ボルトなどで断熱欠損だらけになります。
つまり、
断熱=断熱材の性能×厚み×現場施工精度
となり、どれが欠けても十分な断熱は得られません。

②設計的アプローチ

冬の暖房で得た熱エネルギーを出来るだけ家の外に排出しない間取りが必要となります。
仮に、壁や天井などからの熱損失がないとすると、空気の出入りがなければ熱損失は理論上ゼロになります。
しかし、実際には玄関や勝手口での人の出入りの時に空気の入れ替えが発生してしまいます。
玄関を開けてすぐに吹き抜け、という間取りをよく見ます。
しかし、玄関を開けるたびに冬の冷気が吹き抜けを通じて家全体に回ってしまうのでは、どんなに断熱材を強化しても意味がありません。
同様に勝手口も同じです。
玄関は一坪、または一坪半で一度 建具で区切る。
いわば北国の風除室の役割を持たせます。
勝手口も同様。
下足室、食品庫などの用途をもたせ、なるべく小さな空間をしつらえます。

開口部(窓)の計画も重要です。
冬の太陽熱は積極的に取り入れるべきだし、夏の照りつける太陽はなるべくやわらげたいです。
日本人の住まいには昔から軒の出が深く取られています。
深い軒は太陽高度が高い夏の照りつける陽射しをさえぎりながら低い角度から差し込む冬の日差しを家の奥まで迎え入れるのに役立ちます。
軒の出は単なるデザインや外壁の保護だけではなく重要な役割を持っています。
そして唯一南に面した窓だけが冬の日射が多くなり夏が少なくなります。
日本の家がみな南を向いているのはその為です。
最も夏暑くて冬寒くなるのは天窓です。

遮熱性能の高いLOW-Eガラスを使用するときは無理に南側にまで入れると貴重な冬の日射による取得熱もカットしてしまうことになります。
南の窓は夏の日射が少なく、冬の日射が最も多くなります。
東西の窓はその逆になり、北の窓はほぼ直射日光の影響を受けません。

計算すると大体の家で南のサッシだけが冬の日の1日の日射取得のエネルギーが窓から逃げるエネルギーを上回ります。
南は日車取得係数の高いガラスでなるべく大きく開口部をとり、北・西・東の窓には遮熱のしっかりしたガラスを採用し、なるべく小さく計画することも必要です。
いくら高性能なガラスでも断熱材の入った壁に比べれば性能はかなり低くなるからです。

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