eps.3 農と食で未来をつなぐ | 建築工房 零

eps.3 農と食で未来をつなぐ

遠田郡美里町

今回の暮らし人、Sさんご夫婦。農業も禾食やも子育ても主に夫婦で行う。

農の未来を 食で繋ぐ禾食や

田んぼの緑が風に波打つ7月。自宅で「禾食や(かじきや)」を営むSさんご家族を訪ねた。5年ほど前に完成した零の家は、県内でも人気のタルト、キッシュのお店としてだけでなく、地域のよりどころとして欠かせない存在となっている。

元々フレンチシェフだったご主人は、6年程前に実家の農家を継ぐことになった。社会問題にもなっている農家の後継者問題は、思っていたよりも深刻で、平均で70歳代という超高齢化した農家の実態を目の当たりにした。元々閉鎖的な世界でもあり、農業という仕事をよく言う人はいなかったという。奥さんも、越してきて3年は田舎ならではのルールに振り回されてしまい、この町を出たいと思っていたほどだったと話してくれた。 そんな生きづらいイメージから一転、今では田舎暮らしを愉しめるほど気持ちが豊かになったと笑顔がこぼれる。それは、この家と禾食やの存在があったからだと

穏やかな暮らし 凛とした空気

「禾食や」を始めたのは、零の家に住み始めてから。農業のネガティブなイメージを払拭するために、美味しいタルトやキッシュを作り販売することで、新しい風を吹かせたい。屋号である「禾食や」に持たせた意味は、稲や農作物、苗を表す「禾」。人はそれを食べることで命を繋いでいくということで「食」。そのあとに続く「や」は、禾や、食や、○○というように、その先の可能性を意味するのだという。こうして、禾食やは農業の希望に満ちた未来を紡ぎ出している。Sさんの農園では3名の女性スタッフがいるが、土に触れる喜びを噛み締めながらも、そうした未来に心をときめかせ、イキイキと働いているそうだ。

天からの恵みを 未来へと紡ぐ

さらに、この禾食やという場所が、かつての奥さんと同じように悩みを抱える女性たちのよりどころとなり、ほっと一息付け、充電できる場所として、お互いの心の支えにもなっている。

この家があったからこそ始まった。

すべては、零の家から始まった。今では何をするにもこの家があり、家族にとってとても大切な存在なのだと嬉しそうに奥さんは話してくれた。この日、高校で陸上をするために親元を離れて暮らす長女が帰ってきた。話は自然と陸上の話題に。何気ない会話からも成長した娘の姿を嬉しく思う。彼女にとってもまた、この家はなくてはならない場所なのだろう。

元フレンチシェフのご主人。友人を招いて食事会を開き、腕を振るう。

手塩にかけて育てた野菜のほとんどは、料理人時代の友人のお店へ。各店舗のメニューの内容によって種類や量を判断する。時にはメニューを提案することもあるのだとか。

知られることのない 農業の裏側

農業は、1年という長いスパンで進む。その中でも日々の細かな農作業は、消費者にはあまり知られることのない裏側であり、欠かしてはならないものだ。Sさん夫婦は、その裏側を多くの人に知ってもらいたいと発信にも余念がない。作り手の想いが、米や野菜をさらにおいしくする。

収穫した野菜を、丁寧に包み込む。全ての手作業に想いがこもる。

収穫中のご主人。キリッとした力強い表情が、農業、そして食への想いを覗かせる。

地域の味として 有り続ける

禾食やを営む目的の一つとして、近所の子どもたちが大きくなって都会に出ていった時に、地元にうまいもんあったな~と思い出してもらえるような、地域に根付いた味を作っていきたいと元料理人のご主人。
禾食やは毎週金曜土曜が営業日。農業の繁忙期でもある3~5月の間は店は開けず農業に専念するそう。

週2日間の営業にも関わらず知名度は抜群。お客さんは地域の方にとどまらず、石巻や仙台市内からも来るそうだ。この日も陽が傾く頃には、ショーケースの中身は空っぽに。
※今回、写真提供して頂いたFilm Arrange Eggのスタジオ兼カフェ「sakura no ma」でも禾食やのメニューを楽しめる。

なでしこJAPANを目指していた長女。高校進学の際、サッカーの推薦を蹴って、両親と同じ陸上の世界に飛び込んだ。Sさん夫婦は、「走ることをよく知っている分、厳しくなる部分もあるし、長女のレース前なんかは、自分達の当時の記憶が蘇ってくることも。自分で決めた道。世界一のファンとして誰よりも応援している。」と自分たちの夢を長女に託した。

冬の燃料となる薪は、地域の果樹畑からの副産物。

DATA

所  在/遠田郡美里町
竣  工/2013年4月
構  造/伝統構法・木組み
敷地面積/107.44坪
延床面積/30.20坪


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