eps.6 里山の小さな暮らし | 建築工房 零

eps.6 里山の小さな暮らし

泉区西田中

憧憬の向こうへ

初冬の朝、泉区郊外に里山の暮らしを訪ねた。姥懐(おばふところ)の名の通り、東西を山の裾野に抱かれた、どこか郷愁を覚える場所だ。このところの冷え込みのせいで、辺りの田畑には霜が降り、日の出の時を今か今かと心待ちにしているようだ。ここは、建築工房零専務自邸。家族4人と、犬の”おこめ”、ヤギの”だいず”が暮らしている。
家族がこの地と出会ったのは、ちょうど4年前。それまでは、アポートに暮らしていた。零が開催した田植えイベントをきっかけに、経験のない4家族で、無農薬、天日干しの米づくりを始める。当時、1才半だった長男は、作業をする母の背中、畦の上で育った。もともと自然が好きで、こうした環境で子どもに育ってほしいと思っていた。その頃から、憧れに過ぎなかった里山の暮らしを、現実のものとして感じ始める。それから時を重ね、長男の小学校入学を間近に控えた頃、この土地とそこに建つ小さな農家住宅と出会う。空き家寸前の古屋と耕作放棄寸前の田んぼで暮らしが始まった。

時代を遡るリノベーション

築70年の歴史の中で何度となく増改築を繰り返してきたであろう建物は、その次代を遡るかのように床や天井が剥がされ、原型を取り戻していく。古いものに蓋をしてキレイに暮らすのは性に合わない。なるべくその時代を尊重した上で、家族が健康的に生活するのに必要な分だけ手に入れたかった。その結果、床の張替え、屋根断熱、北側の土壁の解体と断熱工事を行い、今の姿へと辿り着いた。

自然体でいられる幸福

米づくりにも取り組んだ。1年目は気負いからか、すっかり疲れ果て、2年目にようやく自然との付き合い方を掴み始めた。3年目からは、近所の田んぼも加え、13区画の不揃いな田んぼを、15家族と認定こども園の子ども達に担当してもらう、マイ田んぼプロジェクトをスタート。関わってくれる人たちの元気と笑顔、地域の方々に支えられ4年目のシーズンを終えようとしている。

この暮らしが未来に繫ぐもの

ここでの暮らしをどう思っているかを家族に尋ねてみた。奥さんのYさんは「この奥まったところに引っ越して来て、かえって世界が広がった」とした上で、「本当はもっと森の中に住みたかったんだけどね」と笑いながら話す。子ども達はそろって「まあまあ」だそうだ。この自然と地域の人々の中で、伸びたいように伸び伸びと育っていって欲しい。
訪れる前まで特別なものだと思っていた里山での暮らしぶりが、本来あるべき人の暮らしなのかもしれない。そんな想いをぼんやりと感じながら、光に満ちた細いでこぼこ道をあとにした。

神聖な空気が支配する冬の朝。里山の暮らしは、四季の移ろいをドラマチックに映し出してくれる。

古い梁の下のみんなのテーブル

天井が剥がされ、新たに屋根断熱を施した開放的な空間には、70年の歳月に渡りこの家を支えてきた針や柱が現(あらわ)しに。その下に置かれた10名掛けの大きなテーブルは、食事や宿題はもちろんのこと、洗濯物をたたむ場所としても、重宝しているそうだ。

6畳3間続きだった和室は、開放的な団らんのスペースに。30名規模の”集まり”にも利用している。

暗く寒かった台所は、人が集まるアイランド型の造作カウンターを備えた機能的な空間に。この日も、次男のRくんが柿をむき、長男のGくんがコーヒーを淹れてくれた。

越してきて間もなく、近所のクリーニング屋さんから紹介され、生後一ヶ月で家族に加わった雑種犬の”おこめ”。いつも家族のそばにいて、”喜怒哀楽”を見守ってくれている。

裾野から日が昇り、少し遅めの朝の光が、食卓を照らし始める。

9畳ほどある広縁は、もう一つのリビング空間。ソファに腰掛けながら眺める里山の景色が何よりの贅沢。

もともとこの家で使われていたガラス建具の入った畳の間。昼食はちゃぶ台を置きもっぱら工作コーナーに、夜は布団を敷いて家族4人で眠る。

いきものとの暮らしが毎日を整えてくれる

朝起きて、犬と散歩し、ヤギを草のあるところに連れて行く。春に田植えをし、夏は草刈り、秋には稲を刈り、稲架(はさ)にかけて天日干しする。自然や生命とともに繰り返される日々の営みが、確かな暮らしを、この土地に根付かせてゆく。

認定こども園の田植えの一コマ。子ども達の心にも、多くの実りがありますように。

写真スタジオでは撮ることのできない、犬とヤギとの貴重な家族写真

DATA

古民家リノベーション
所  在 / 泉区西田中
築  年  数 / 築年数70年
敷地面積 / 395.9坪
延床面積 / 47.00坪


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