
コラム『呼び覚ます建築』第3回・「例えば、ひと本来の力」

家族と、家のライフサイクル
先日、90歳近くなった祖母と話をした。
いつの間にか足腰がひどく弱り、右手には杖を持ち、左手は私が手を引いて歩いた。
そんな祖母から、「建築会社にいるのなら、老人に優しい家を建てなさいよ」と言われ、「はて、それはどんな家だろう」と考えた。
一般的な「高齢者に優しい家」は、段差につまづく危険がなく、スムーズに移動ができる。
いたるところに手すりがあり、玄関はスロープで、冬もきちんとあたたかい。
このような住まいが必要な時期は間違いなく存在する。
お年寄りや車椅子利用の方など、どんな人でも不自由なく暮らすことのできることはどう考えても良いことであり、すべてバリアフリー仕様で建てればよいと思うわけだが、私はそうは限らないとも思うのである。
その心当たりを挙げてみる。
山口県や千葉県に、デイサービスを提供する「バリアアリー」施設がある。
そこでは段差、坂、階段等の日常で遭遇するバリア(障害)を意図的に配置し、お年寄りの日常生活の改善につなげている。
すべてに手すりがあると、それに依存し、手すりがないところでは歩けなくなってしまう。
すべてをバリアフリー化してしまうと、本来持っている能力や感覚を失うことにもなりかねないのだ。
子どもの成長でも同じことが言える。
身体が未発達な幼児期や児童期の子どもは特に、運動の機会はあればあるほど良い。
実際にすまい手さんの家では、ハイハイで階段を上っていく乳児や手足を器用に使い柱を登っていく子どもたちがたくさんいて、家の中でいろいろな運動をして楽しんでいる様子が見られる。
また、私がスタッフとして関わる「森の親子ようちえん」では、自然のなかでさまざまな経験に出会える。
例えば、子どもが親の手を借りず、川を登りきると、擦り傷や濡れた服もなんのその。
誇らしげな笑顔を見せてくれる。
その子が感じたであろう不安や達成したことへの喜びは、そこに出向かなければ味わえなかった感情なのではないか。
バリアフリーではない環境が、子どもの心と体を成長させてくれるのだと思う。
人にはライフサイクルがあって、年代、家族の構成、仕事や健康状態といったそのときの状況によって変わっていく。
こう考えてみると、暮らし方が変わっていくように、家そのものも、そのときの状況によって変えていくことができれば良いのではないか。
子どもの成長を促す環境、高齢の方が安心して過ごせる環境、さらには、その次の世代へ引継げることも含めて、その段階に応じて、室内環境を変えていくことのできる、可変性のあるすまいのあり方を追求していくことが大切だと思う。
日々の暮らしを振り返ること
もうひとつ、祖母を見ていて大事だなと思ったことがある。
それは、日々の暮らしを振り返ること。
もっと言えば、AIや自動化の波に、ひとの役割を奪われすぎないことだ。
高性能なお掃除ロボットや、すぐに食べることのできるレベルの高い簡易食品などによって、家での仕事はどんどん手軽になっている。
さらに家事ラクや時短といったニーズも後押しし、手放すことに前向きな流れもあると思う。
もちろん私もその恩恵に多分にあやかっているし、否定するつもりはまるでない。
けれど、無感情にそれ頼りになったら危険だなと思う。
現に、祖母は家での仕事を手放してから、急速に老いてしまった感覚がある。
テレビドラマ『きのう何食べた?』では、主人公がつくる手料理を、パートナーとともに食べる日常を坦々と描いている。
それが何ともふつうで、愛おしい。
人の手で長年積み重ねられてきた行為を、そのささいな喜びと感動を、日々の暮らしに無理なく組み込む。
それだけで、私たちは随分と生きている心地を感じられるのだと思う。
私たちつくり手は、すまいや暮らしの課題解決を早急に行うのはもちろんだが、10年後や20年後、はたまた50年後にしか結果の出ないご家族の幸せを、願い、見据えて家づくりに携わっていきたいと思う。
ひとが生きていくことへの素地づくり。
それが私たちの仕事なのかもしれない。

この家で、どんな経験をして、どんな人になっていくのだろう。

阿部 梢
【筆者プロフィール】
株式会社建築工房零 所属の広報スタッフ。東北大学4年生の時、同社インターンシップに参加。村づくりのプロジェクトにおいて、持ち前の明るさと行動力を見せ、その後入社。「森の親子ようちえん」という子育て・教育関連のイベントの立ち上げメンバーとして参画。現在は企画広報スタッフとしてチラシ、パンフレット、ホームページ等のツール作成、イベント企画・運営等に携わり、日々奮闘中。
※この文章は、『IECOCORO[イエココロ] 宮城で建てる注文住宅 』に掲載されている連載コラムの内容となっています。
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