ぜろだより勝手にバックナンバー② | 建築工房 零
ぜろだよりコラム選
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ぜろだより勝手にバックナンバー②

キクチシロウ
ぜろだよりコラム選

季節ごとに発行している「ほぼ季刊誌・ぜろだより」。わたし菊地は、表紙をめくったすぐのページを頂戴し、徒然なるままに書かせて頂いております。ということで、目下、編集中の次号(vol.77)が7月上旬に発行されるまでの間、直近3号の巻頭言を再掲載させて頂きます。今回はその2回目。宜しければ、お付き合い下さい。

 

〔ぜろだよりvol.75(2021年12月)〕

待つことのしあわせ。

小学生の息子が以前お世話になった教頭先 生と手紙のやりとりをしている。届けばすぐ に返事を書き、夜だとしてもコンビニで切手 を買ってやっては、わざわざ郵便局まで出向 いてポストイン。翌日には「まだ来ないかな ‥」と郵便受けを何度も開け、バイクの音が すれば外へと飛び出す。ルンルンとソワソワ が止まらないようだ。

思えば、手紙から電話、ポケベルから PHS、 携帯からスマホへと時代は進み、待つことも 随分と減った。そのことが、時間や心に余裕 をもたらせてくれればいいものだが、不思議 なことに、次の忙しさやイライラ、不安や疑いなんてことも連れて来てしまう。

“ 便りのないのは良い便り ”。最近聞くこと のなくなったこの言葉には、待てども、待てども連絡のない寂しさをぐっと呑み込み、気持ちを立てようとする気配もあるが、全てを、直ぐに知り得なくとも、それなりに暮らせて いた時代の方が、幸せだったのかもしれない。自分と相手との行間を楽しむように、余韻と 想像の支配する時間が、豊かに流れていく。

会えない時間が愛を育み、厳しい寒さが人の心をあたためる。こうした逆説的な関係を、 しなやかでしたたかな人の心は、生きる力に 変えているのだろう。

息子には、84 円切手の買い置きをしてあ げようと思う。

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