TALK SESSION -楓の下に集い まちに開く- | 建築工房 零
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TALK SESSION -楓の下に集い まちに開く-

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築70年の農家の古民家をモダンに改装した、カゴ盛りランチが評判な古民家カフェ「農園カフェ日々木」は、南側にブルーベリー畑が広がり、障害者就労支援としてジャムやお菓子、漬物などの製造加工も行っています。2007年から営業していましたが、手狭になってきたため、菓子工房と事務所を兼ねた建物を新しく建てることになり、青森県産のスギやヒバを使用した建物が完成しました。日々木の森 代表理事の立崎文江さんと、設計・施工を手掛けた建築工房零 青森設計室室長の福井素子さんに話を伺いました。

一般社団法人 日々木の森 代表理事
立崎 文江さん

(株)建築工房零 取締役 建築事業部技術部長 青森設計室室長
福井 素子さん

TALK SESSION -楓の下に集い まちに開く-

カエデの下に集う風景をつくる

日々木の森 立崎文江様(以下立崎) 手狭になった工房や事務所の建築を考えたときに、青森県産の木材で、青森に居る方と一緒に、オール青森にこだわって建築したいなと思っていました。そんな中、所属している中小企業家同友会※の講演で零さんの存在と、青森でもやっていることを知って、お声がけしたのが最初の出会いです。
はじめはやりたい!の思いだけで、本当に建てられるかが不安だったけれど、やり取りを重ねていく中で、自分の思う通りにやってみたい、と腹が決まった時があって。「私絶対実現させます」と福井さんに伝えてからはあっという間に進み、2024年2月に完成しました。
福井さんにお願いしようと決心したのは、敷地の中央にある大きなカエデの木を、当然のように「残しましょう」と言っていただいた時。樹齢も分からないくらい以前から在ったカエデですが、どうしても残したいなと思っていて…。もちろんこのカエデが無い方が空間を有効に活用できるのは分かっていたので、この価値観を共有できるんだ!と嬉しかったです。

 

青森設計室 福井素子(以下福井) そこに在るカエデの存在感と、その下にできる木陰が心地よくて。人が集う場所だなと感じたので、活かしたいと思い、新しい建物とカエデの木が共存できるように設計しました。建物自体は、元々ある古民家カフェと新しい建物が一体で見えるように、建物の〝高さ〟からアプローチしました。仕上がりのスタイリングについては、立崎さんからこうしたいです、というのをメッセージや写真などで共有してもらっていたので、それをデザインコードみたいに整えて提案していきました。

立崎 提案されたものを見た時に「そうそう、それなんです!」と(笑)。

福井 例えば表札は真鍮製のものなんですが、これも立崎さんからアイデアをいただいて調べていたところ、仙台のスタッフから真鍮の表札をつくっている弘前の方を偶然教えてもらって!そこにお願いするしかないだろうと。ひとつ動き出すと、引き寄せみたいに、自然と情報が入ってくるのが面白いですよね。

変化していく素材を引き受けて育んでいく

立崎 私は無垢の木のぬくもりや床の踏み心地が好きなのに、自宅では選ばなくって失敗したなと思っていて。寒い地域だから、足先がひやっとするのが嫌だなあって思っていたので、新しく建てるときは絶対無垢でと思っていたんです。

福井 今回コミュニティスペースで採用している無垢のスギの床は、やわらかく肌触りがいい一方で傷がつきやすい、といった特徴があって。そうした素材の変化は、新品状態がある程度長く続く素材とはもちろん違うのですが、その変化を立崎さんが「これがいいんです」と引き受けてくださって。

立崎 先日も、無垢の床のうえに小銭を大量にぶちまけてしまって(笑)よくよく見れば傷になっているんでしょうけど、特に気にしていないし、自分以外のスタッフの方とも「そういうものだよね」と共有していくようにしています。

福井 だいぶ床の色も変わってきましたね。

立崎 そうですね。さまざまな方が集うコミュニティスペースにはスリッパはあるけれど、履かずにどうぞと伝えています。子どもたちの地域活動やメンタルヘルスの研修とかにすごくいいと反響をもらっていて。木がたくさん使われていて、無機質な空間じゃないことが、話しやすさや、伝えたいことが言葉に出やすい環境をつくっているのかなあと。
私がこの建物で特に好きなのは、いろんな色の空が見られるところ。日々癒されています。あとは廻廊ですね。どこから見てもかっこよくて満足です。軒下ではブルーベリーやスムージーをお渡ししている傍らで、ブルーベリーを摘み取りにいらしたお客様も休憩していて。いい風景だったなあ。

福井 夕暮れに差し掛かる辺りの時間の、建物とカエデの木のシルエットが最高にかっこいいんだよねえ。暗くなってくると照明がついて。

 

立崎 本当に、好きなところだらけです(笑)これからは、マルシェをはじめて、地域の方に来てもらって。ここが街の集う場所になったら嬉しいなあと思っています。長期的には、増築とか、宿泊できるように…とか、変化していきそうだなと思っています。それが出来るようにつくってもらったし、今後の展開を考えられるのが楽しみです。

 

福井 トレーラーハウスを置いて、そこでブルーベリー農園や菓子工房でつくったものをマルシェで販売する、といった話もありましたね。零でもキャンピングトレーラーをつくっているので、ぜひ使ってください(笑)

一般社団法人 日々木の森 農園カフェ日々木

青森県十和田市相坂字高見147-89
TEL.0176-27-6626

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